呪いの洞窟
篤志は真剣に悩んでいた。恐い場所に連れていくと恋が深まる――久しぶりに会った従兄弟から、彼女と一緒に吊り橋を渡ってその晩うまくいった話を聞かされたのだ。篤志には、美香という付き合って半年が経つ同級生の彼女がいた。よく笑う開放的な性格なのだが、経験に関しては慎重で、どうしてもデート以上の進展がないのだ。高校卒業前に何とか一歩踏み出したい……そう考えながら悶々としていた。
思い当たるのはひとつ。市の郊外にちょっとした深い鍾乳洞があった。八墓村の映画が流行った頃はいろんな人が興味本位で探検したらしいが、数年前ある出来事があってから、恐がって人が近づかない状態だ。噂では洞窟の奥底で、気が触れた女が藁人形を何体も持ち込み、悲壮な言葉とともに釘を突き刺していたんだとか。
しかし、今更呪いもないだろう。いざとなれば深入りせずに帰ればいい。幸い美香は鍾乳洞の噂を知らなかった。篤志が出した意外なデートコースの提案に、恐いもの好きの美香は即答でOKした。
歩きやすいスニーカーを履き、懐中電灯をかざし、二人は鍾乳洞を覗きこむ。バスでは笑顔ばかりだった美香も、少し怯えた目で篤志の顔を確かめた。そして、重たい曇り空に別れを告げ、呼吸さえ反響する冷えた暗闇の中に二人は踏み込んだ。
一歩一歩進むたび、むっと来る濃厚な泥の匂いと、足元の不安定さが美香の体を強張らせていく。楽しむ様子もなく本当に恐がっている。作戦は順調だ。やがて言葉もなく篤志の腕にしがみつき、胸の感触が……――あれ? 期待と違う。
篤志は懐中電灯を美香に当てて驚愕した。ふっくらあったはずの胸が見る影もなくペッタンコになっている。美香はまぶしげに目を細め、ついに自分の胸の異変に気づいた。
「うそぉっ、なにこれぇぇええ!!」
絶叫が洞窟内にこだました。
作業員の柏木は休憩時間に、麦茶を飲みながら、先輩の恩田の話を聞いていた。
「とんでもない呪いっすね。それが俗に言う『小乳洞』ってわけですか」
「どうも例の藁人形やってた女がペッタンコだったらしいな。で、彼氏が乳のでかい女に奪われて、恨みのあまり藁人形の胸に釘を打ったんだとか」
「俺、貧乳でもOKだけどなぁ」
馬鹿笑いした後、二人は重機に乗り込み掘削作業を再開した。
鍾乳洞の入口封鎖は市長の一存で急遽決まったようだが、先日彼の一人娘が鍾乳洞から泣いて帰ってきたのと関係があるかどうかは定かでない。