たったひとつの冴えたやりかたは、今日も不採用だった


「もっと即効性のあるアイデアはないのかね」
 首相は目頭をもみほぐしながら言った。かなり疲れているように見える。
「少子化は今や我が国の命運を左右しかねない問題なのだよ。確かに、人工授精への保険適用も、高密度精液の開発も、絶倫AV男優のクローン計画も、ピンホールコンドームの極秘製造も、一定の効果は見込める。しかし、それでは間に合わない。諸君らが思うより、この問題には早急な対策が求められている」
 会議場に集まった、閣僚と官僚、それに各界有識者からなる少子化対策委員会のメンバーは、押し黙ったままだった。彼らなりの英知を結集した妙案は、すでに出尽くしていた。
「あのー、首相」
 そのとき、末席から遠慮がちな声をあげ、貧弱な体格の若い男が立ち上がった。
「首相の心配は、要するに少子化によって社会の下支えがなくなる。つまりピラミッド型構造が崩れてしまうということですよね?」
「初めからそう言って――」
「それならば、ことは簡単です」
 急に確固たる口調に転じ、何を今さらといった首相の苛立ちを遮った若い男は、ずり落ちてきた丸眼鏡を中指で押し上げる。
「この場合の少子化とはあくまでも相対的なものでありますから、逆に対照となる数値を減らせば良いのです。わたしの試算によれば、60歳以上の人口を現在の3分の1にまで減らすことで、少子化に起因するあらゆる問題が解決します。また、その実現も比較的簡易な手法により可能です。例えば60歳以上の国民を無作為に選出し、戦争状態にある国へ送り込む。もちろん、これを国際貢献と称するならば、法の精神に触れるものではありませんし、それに、首相お気に入りの護国神社に戦死者を祭るとなれば、正に願ったり叶ったりで――」
 しかし、すらすらと自説を述べる嬉々とした声はそこで途切れた。首相の目配せに促された屈強な男たちが、彼を会議場の外に連れ去ってしまったからだ。
 おそらく、学者風情の世間知らずな彼は知らなかったのであろう。
 この場にいる者すべて、もちろん、髪にパーマをあて、若く見せることにほとんど成功したといえる首相でさえ、とうに60歳を過ぎているといった事実を。
 そして、彼らにとっての問題解決とは、たいがいにして、自分たちの身の安全を図ったうえでの事案にすぎないという、誰もがわきまえている常識を。
「では、5分間の休憩といたします。再開後は、地域密着型ラブホテルの将来性について――」

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